第一回 林英哲杯 太鼓楽曲創作コンクール 本選結果

7月18日、第一回林英哲杯太鼓楽曲創作コンクールが開催されました。
本選に勝ち進んだ全18組の作品が演奏され、下記の方々が受賞されました。

■独奏作品部門 青少年の部
 最優秀独奏作品賞  土田 純平
 優秀独奏作品賞   土田 倖平
 

■独奏作品部門 一般の部 
 最優秀賞独奏作品賞 木村 寛大
 優秀独奏作品賞   溝端 健太
 

■団体作品部門
 最優秀団体作品賞  青木村義民太鼓保存会志魂
 優秀団体作品賞   だげきだん
 

■最優秀鼓手賞    山本 将史(水島灘源平太鼓)
■打法・演出賞    福井県立勝山高等学校日本文化部 
 

総評――林英哲

 今回、創作コンクール第一回ということで、様々な応募がありました。
一回目なので、とりあえず応募して様子を見よう、という感じの人が多かったようですが、それはそれとして映像からは充分、皆さんの熱意が伝わって来て、興味深く拝見しました。審査をしながら、私自身も日本の太鼓とは何か、表現とは何か、創作には何が必要なのかを改めて考えた次第です。
 太鼓は身体表現なので、曲のアイデアが形になるまでの技の練習や肉体訓練に時間がかかります。「近道」はなく、これが「正解」という山頂もありません。ですが、すぐに良い結果が現れなかったとしても、創意工夫したことは必ず次の創作を生む芽になり、続けていれば思いがけない花が咲く可能性があります。私の45年間は、そういう道のりでした。皆さんも、今回の結果はともかく、日本の太鼓が質の高い文化として良い花を咲かせ続けられるよう、知識も技も磨きながら、一歩ずつたゆまぬ努力を続けて欲しいと思います。

◆審査は次の6項目を基準に、それぞれ1〜5までの5段階評価としました。
・曲 ―――作曲、構成など作品としての質が優れているかどうか。
・リズム――リズム音楽としての魅力があるか、リズム演奏力があるかどうか。
・打 力――日本の太鼓らしさ、打ち込みの力強さがあるかどうか。 
・独創性(オリジナリティ)――作品・演奏に独自の表現を盛り込んでいるか。
・型 ―――重心や足腰の安定感があるか、構え、型の美しさ、力強さがあるか。
・動き(団体部門ではアンサンブル)――打つ動きに無駄がないか、動きに魅力があるか。団体では、アンサンブルとして調和がとれているか、乱れがないか。

以上の視点から点をつけました。体操競技やシンクロ競技のように厳密な技の点数制にすることは不可能ですが、できるだけ客観的になるようにこの基準にしました。
次に私自身の経験から、全体を見て気がついたことを挙げておきます。
●準備時間が足りなかったためか、応募映像が、体の一部が欠けたスマホでの縦長画像だったり、拍手やノイズの交じった画質の悪いライヴ映像そのままだったりしたものがありました。太鼓演奏の撮影は、場所や音量や経費の問題もあり「ありもの画像」を送るしかなかった、という事情もわかりますし、ライヴ映像でもかまいませんが、ただ創作表現のコンクールなので、「創作」の意図が伝わるよう、ライヴであれ、別撮りであれ、それなりのクオリティの画像で応募するのが原則、ということは理解して下さい。
●高校太鼓コンクールなどの影響かどうかわかりませんが、団体競技的な打ち方の「癖のようなもの」が共通しているのが気になりました。「不安定なままやたら動く」「重心、構えが定まらない」「むやみな大振り」「力まかせのぶっ叩き」など――こういう打ち方は、元気良さのアピールとして喜ぶ人もいますが、関節、腰、背中など、体を傷める原因にもなり、打ち手の技量もこれ以上伸びません。ユニゾン(そろい打ち)と元気さを競うコンペならこれでもいいでしょうが、創作表現として見ると、どの団体もほとんど同じ印象に見えます。元気さや勢いは、太鼓の特長を生かす意味で大いに良いのですが、「よそも皆こういうやり方で入賞しているから」「客に受けるから」という発想で広まった打ち方のように見えます。長くやっている私から見ると、打法としては方向性が違うように思います。
●太鼓セットを使う場合、太鼓の数をたくさん並べる傾向がありますが、多くのチームがその数を生かし切れていません。派手なセットは舞台上のビジュアル効果もあり、使いこなせば面白いのですが、必要な音は何か、少ない太鼓でどれだけ多彩な音楽や技を表現できるか、という基本中の基本を忘れないで下さい。
●舞踊的な動きや振りを取り入れているチームでは、舞踊的訓練の不足を感じました。日本的な構えや、動き、所作、などは、スキルのある指導者から直接指導を受け、訓練しないと、見よう見まねだけではかえってみっともない動きになります。
●楽曲が、どこかで見たプロ集団などの、曲、リズム、打法からのパッチワーク(つぎはぎ)のような構成になっているチームも目につきました。誰でも初期は、お手本の真似から始まるものですが、創作表現コンペでは、独自の発想が必要です。パッチワーク手法が悪いわけではなく、それをどう音楽として組み立てるか、その創造力が問われます。
●日本の太鼓なのに、やっている内容が「ラテンパーカッション」「アフリカンリズム」「マーチングバンド」そのまま、というようなチームも見受けられました。おそらく日本の伝統芸やリズムに接したことがないのだろう、と思われます。日本の太鼓打ちなら、日本の祭囃子や伝統リズムを学んで、そこから独自の新しい曲を創る発想が欲しいです。地域の伝統を勝手に変えることは禁じ手、ですが、そこから学ぶことは多くあります。
●「かつぎ桶」と呼ばれる青森県の太鼓打法に、韓国の「チャンゴ」打法を混ぜているチームもいくつかありました。プロ集団がやっている演奏を見て、おそらく韓国打法と知らずに真似たと思われますが、これを「日本の太鼓」としてやるのは無理があります。日韓双方の固有の伝統文化を混乱させ、その文化を大事に継承している双方の人達に対して失礼だと私は思っています。
●創作表現ですから外国的リズムや打法を入れるな、とは言いません。私も、曲によってはやっています。ただ、創作表現としてどう咀嚼し昇華しているか、音楽的、打法的に独自のものになっているかどうか、を見せて欲しいと思います。安易な外国異文化の物真似なら、日本の太鼓でなくても、他の楽器でやれることです。
●日本の太鼓の技を使って、どう表現を開拓して行くか、新しさを出すか、質を高めるか、世界に出せるか、ということがこのコンペの方向性なので、それを踏まえて、今後の作品創りに挑んでください。